
こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
今日の夢中は、サム・フェンダー、聴くほどに胸に沁みる身近な人々の物語「People Watching」です。
「夢中図書館 音楽館」は、ロックの名盤や新譜、個人的な愛聴盤などをレビューする音楽ブログです。あなたのお気に入りの音楽を見つけてください。
■サム・フェンダー
今日取り上げるのは、注目の英シンガーソングライター、サム・フェンダー(Sam Fender)です。
サム・フェンダー(1994年4月25日生まれ)は、英ニューカッスル近郊のノース・シールズ出身。
彼は幼少期後半から青年期にかけて、両親の離婚や継母との確執、貧困や命に係わる病気を経験するなど、波乱の時期を過ごしました。
Sam Fender Book: The Voice of North Shields
すさんだ生活の中で、彼は音楽に自分のはけ口を見出しました。元々音楽一家で育った彼は、8歳のときに父からギターをもらい、13歳のときには人前で演奏をしました。
「13歳のときは、それが人生で唯一の希望だった」とプロのミュージシャンになることを夢見ます。その夢に向かってサムは曲を書き続けました。
若くして貧困に直面していた彼はいくつもの仕事をかけもちます。その一つが、パブで働くかたわら、そこでステージに立ち有料のギグを行うことでした。
18歳の頃、パブで演奏しているところをベン・ハワードのマネージャーに見出されます。彼はハワードらのサポートアクトにサムを起用、イングランド中のギグに同行させました。
そうした下積みを経て、2017年3月にデビューシングル「Play God」をリリース。インディーズで注目を集めます。
翌2018年にはポリドールと契約して、シングル「Dead Boys」をリリース。これがメジャー・シーンでも注目を集め、その名が次第に知られるようになりました。
そして待望のデビューアルバムが2019年にリリースされます。アルバムタイトルは「ハイパーソニック・ミサイル」(Hypersonic Missiles)。
同名のシングルのスマッシュヒットもあって、アルバムは全英1位を獲得。3か月で10万枚以上を売り上げるなど数々の記録をつくる大ヒットアルバムとなりました。
その躍進はとどまるところを知りません。2020年のブリットアワード最優秀新人賞にノミネート(受賞はルイス・キャパルディ)。
さらにヨーロッパをまわるヘッドライナー・ツアーを成功させると、2020年春にはイギリスで初のアリーナ公演を予定するほどの人気を集めます(コロナのため中止)。
2021年7月には、2ndアルバム「Seventeen Going Under」をリリース。同名のタイトル曲は、17歳のサムと、母親を経済的に助けようとする彼の闘いに焦点が当てられました。
社会派のメッセージソングが多いんですよね、サムの曲は。そうした硬派なスタイルも支持を受けて、同アルバムは全英アルバムチャート1位を獲得。その人気を不動のものとしました。
■People Watching
そんな今最も要注目のアーティストと言えるサム・フェンダーの3rdアルバムがリリースされました(2025年2月)。
アルバムタイトルは「People Watching」。ジャケットには、社会的ドキュメンタリー写真家として知られるティッシュ・マーサの写真を起用。労働者階級の生活のワンシーンと思われます。
アルバムも「日常的だがしばしば非凡な生活を送る日常の登場人物の色彩豊かな物語」(サム)を取り上げ、その社会的リアリティが多くのリスナーの共感を集めています。
アルバムは全英1位を獲得。さらに同名のタイトル曲も全英シングルチャート4位を獲得するなど、今や全英を代表するミュージシャンに。ますます目が離せない存在となっています。
そんなサム・フェンダーの3rdアルバム「People Watching」大ヒットを祝して、このアルバムから個人的なおススメを紹介しましょう。
まずは1曲目、「People Watching」。
アルバムのオープニングナンバーにして、1stシングルとしてリリースされた楽曲。
この曲についてサムは、「自分にとって代理母のような存在で、昨年11月に亡くなった人についての曲」と語っています。彼女のいる介護施設への行き来から楽曲が生まれたのだとか。
生々しい歌詞とストレートなロック。一聴するとブルース・スプリングスティーンを想起するサウンドです。実際にサムは、スプリングスティーンと彼のアルバム「Born to Run」を大きな影響を受けた人物として挙げています。
続いて5曲目、「Arm’s Length」。
印象的なギターリフから始まるロックナンバー。ポップなメロディと女性コーラスが印象的な楽曲です。
曲調はポップなんですが、この曲は「Arm’s Length」(腕ほどの距離)でありながらも、自分をさらけだせない微妙な心理状態を歌っています。
「Do you have to know me, know me inside out?」(君は僕の内側まで知る必要があるの?)。終盤のハーモニカの音色も胸に刺さる名曲です。
そして11曲目、「Remember My Name」。
アルバムのラストを飾る抒情的なバラード・ナンバー。こんなしっとりしたナンバーも卒なくこなせるんだね、サムは。
この曲は、サムが亡き祖父母にささげたラブソング。認知症に苦しんでいた祖母の面倒を見ていた祖父の視点からこの曲を書いたといいます。
「I'll tell you stories / Kiss your face / And I'll pray you'll remember my name」(話をしよう、キスをしよう。あなたが私の名前を覚えていてくれるように…)。MVもジンと来ます。
いやぁ、すばらしいアルバムですね。サム・フェンダー「People Watching」。
さまざまなひとの物語がこのアルバムに詰め込まれています。聴けば聴くほど胸に沁みていく楽曲の数々…「People Watching」、おすすめです。
ありがとう、サム・フェンダー! ありがとう、アルバム「People Watching」!