ビリー・ブラッグ「The Million Things That Never Happened」今の時代に送る癒しのブルース

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こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。

今日の夢中は、ビリー・ブラッグの8年ぶりとなる新譜「The Million Things That Never Happened」をとり上げます。

■ビリー・ブラッグ

ビリー・ブラッグ(Billy Bragg)
1957年12月20日生まれの、英国人シンガーソングライターです。

はじめは友人とパンクバンドを結成しシングルを出したりしますが、鳴かず飛ばず。
一時はイギリスの軍隊に入隊する(3か月で除隊)など異質のキャリアを歩みますが、音楽への熱情は変わりませんでした。

除隊後、ビリーは音楽活動を再開。ストリート・ミュージシャンとして路上やパブなどで精力的に演奏を重ねます。
やがて、彼の音楽スタイルや社会的なメッセージが込められた歌の数々が話題を集めるようになりました。


Life’s Riot with Spy Vs. Spy

そしてついに1983年、アルバム「Life’s Riot with Spy Vs. Spy」でデビューを果たします。
このアルバムは大きなヒットとはならなかったものの、収録曲の「A New England」が後にカースティ・マッコールにカバーされトップ10ヒットとなるなど、秀逸な楽曲ぞろいでした。

着実に人気を高めていったビリーは、1986年に3rdアルバム「Talking With The Taxman About Poetry」をリリース。
これがトップ10入りするヒットを上げ、その名が広く知られるようになりました。


Talking With The Taxman About Poetry

■The Million Things That Never Happened

彼の魅力は、強烈なロンドンのコックニー訛りで歌われる歌、そして政治的・社会的なメッセージに富んだ歌詞です。
その怒りや義憤に満ちた音楽スタイルは、「一人クラッシュ」あるいは「吠える吟遊詩人」とも呼ばれました。

彼は、「Workers’ Playtime」(1988年)や「The Internationale」(1990年)など、プロテスト・ソングを歌い続けました。
社会に対して問題を訴えかける真摯な姿勢は、その後も一貫して変わることはありません。


Workers’ Playtime

そして2021年、ビリー・ブラッグが久しぶりにフルアルバムで音楽シーンに帰って来ました。
前作「Tooth & Nail」(2013年)から8年ぶりとなるアルバム「The Million Things That Never Happened」(2021年)です。


The Million Things That Never Happened

パンデミックで社会が混乱していく様に、「吠える吟遊詩人」は黙っていられなかったのでしょう。
同作は、今の時代に警鐘を鳴らすパンデミック・ブルース・アルバムと言える作品となっています。

同時に、人間の回復力に対する賛辞が込められた、癒しのアルバムともなっています。
曲調も、聴く者の心にしっとりと染み入るようなカントリー・ロック風です。

「吠える吟遊詩人」から「癒しの吟遊詩人」へ…。
ビリー・ブラッグが今の時代に懸命に生きる者全てに歌い語りかけるブルース。「The Million Things That Never Happened」です。

■個人的なおススメ

それでは、そんなビリー・ブラッグのアルバム「The Million Things That Never Happened」から、個人的なおススメです。

まずは1曲め、「Should Have Seen It Coming」
このアルバムの世界観を象徴するような、やさしくソウルフルなビリー版ブルース。
ビリーの歌声も女性コーラスもそこに重なる楽器の音色も、すべてが心に染み入ります。カントリー調のサウンドに癒されるオープニング・ナンバーです。

続いて10曲め、「Pass It On」
アコースティック・ギターとピアノのやさしい調べ。ビリーの言葉ひとつひとつがクリアに、胸に突き刺さります。
繋げよう、次に繋いでいこう(Pass It On)。君が歌った言葉を伝えていこう。声は消えても、記憶は残るさ。僕らが記憶に刻んだものは消えることはない。決して…」(ふゆき訳)。
ちなみに、ビリーの隣りでギターを弾いてるのは息子のJackですね。こうして、ビリーの思いも繋いでいってるのでしょう。

そして11曲め、「I Will Be Your Shield」
ビリー自身がアルバムの核心と語る、アルバムからのファースト・シングル。
「君が闇に立ち向かうなら、僕は君の盾になるよ(I Will Be Your Shield)。世界の何もかもが意味をなさなくなっても、僕らは一緒に立ち上がろう。だって、僕らの愛はたった一つ実在するものだから」(ふゆき訳)。

「I Will Be Your Shield」でビリーが歌うように、今の時代は、さまざまな悪意や偏見がひとを苦しめているように思います。
そのとき、大多数に迎合して責める側に立ったり沈黙を守るのか、自分だけは盾(Shield)となって寄り添い、その人のために戦うのか。
やっぱりビリーは今も戦っているようです。ビリーの歌を聴いて、自分も勇気を出して盾(Shield)になろうって思いました。

ありがとう、ビリー・ブラッグ! ありがとう、「The Million Things That Never Happened」!

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