こんにちは。夢中図書館へようこそ!
館長のふゆきです。
1日1頁、その日に起きた出来事やミュージシャンの誕生日などが記載されているタワレコ手帳。
10月21日の頁には、こんな出来事が記されていました。
【命日】エリオット・スミス(2003)
2003年10月21日、若きシンガーソングライターが命を断ちました。享年34歳…。
今日の夢中は、エリオット・スミスの早すぎる死を悼んで、彼の生前最後のアルバム「フィギュア8」をとり上げます。
■エリオット・スミス
エリオット・スミスは、1990年代後半から2000年代初にかけて活動していた米シンガーソングライターです。
1994年、オルタナティブ・ロックバンド「ヒートマイザー」のメンバーとして活動していたときに、アルバム「Roman Candle」でソロデビュー。
その後1996年、バンドが解散すると、ソロ活動に専念します。
彼が注目されるようになったのは1997年のこと。映画「グッド・ウィル・ハンティング」に提供した「Miss Misery」がアカデミー歌曲賞にノミネートされました。
残念ながら受賞を逃しますが、そのとき受賞したのは「My Heart Will Go On」。セリーヌ・ディオンの歌うタイタニックの主題歌でした。
アカデミー賞ノミネートを追い風に、1998年にスミスはメジャーレーベルDreamWorks Recordsに移籍。
そして、アルバム「XO」(1998年)、「フィギュア8」(2000年)を相次いでリリースします。
しかし、順調に見える活動の影で、スミスは深刻なうつ病を患っていました。彼はドラッグとアルコールに溺れます。
そして2003年10月21日、自宅アパートで胸にナイフを刺して死亡…。現場には遺書のようなメモが残されていました。享年34歳…。あまりにも早すぎる死でした。
■フィギュア8
今日はエリオット・スミスの命日。
その冥福を祈って、彼の生前最後のリリース作品となったアルバム「フィギュア8」を取り上げます。
「フィギュア8」は、ソロとしては「Roman Candle」から数えて5作目。2000年にリリースされたアルバムです。
前作「XO」(1998年)がキャリア最高の売り上げを記録したスミス。その流れを汲んで、このアルバムでも「XO」の制作チームが集結、英アビーロード・スタジオでレコーディングされました。
彼の音楽の特徴は、アコースティック・ギターを中心に奏でられる、儚くもやさしいサウンドです。
このアルバムでもその持ち味は十分に発揮。さらに、コーラスワークや様々な楽器の多重録音を施して、バンドサウンドを前面に打ち出しました。
スミス自身も、ビートルズやドビュッシーを意識したと言っています。実際、このアルバムを聴くと、従来にはない軽快なポップ・チューンが聴けたりします。
この新たな試みは、ミュージシャンや評論家から絶賛を受け、「フィギュア8」ツアーも盛況を集めました。
しかし、その成功が、ただでさえ不安定なスミスの精神を病むことになりました。
ライブを重ねるうちに、スタジオで多重録音により制作した楽曲を再現することの難しさに悩み、特にバックバンドの大音量にかき消される自身の声の細さに自信を喪失します。
やがてヘロインを常用するようになり、周囲に自殺願望を口にするほど、ボロボロになりました…。
もともと深刻なうつ病を患っていたスミス。一時は快方に向かいますが、その精神の安らぐところはついに見つかりませんでした。
2003年10月21日、エリオット・スミスはこの世を去りました。
■個人的なおススメ
それでは、そんなエリオット・スミスのアルバム「フィギュア8」から、個人的なおススメです。
まずは1曲め、「サン・オブ・サム」。
アルバムのオープニングを飾るポップなナンバー。「エリオット・スミス、明るくなったな」と驚かされる楽曲です。
アップテンポなリズムに、中盤かき鳴らされるエレキ・ギター、美しいボーカル&コーラス。スミスの新たなサウンドに誰もが心を躍らせたはず…。
続いて2曲め、「サムバディ・ザット・アイ・ユーズド・トゥ・ノウ」。
こちらは、これまでのスミスの系譜を受け継ぐアコースティック・ナンバー。でも音は明るい…。
ひとりサイモン&ガーファンクルのような、美しいメロディ&ギターを奏でています。
そして5曲め、「エヴリシング・ミーンズ・ナッシンング・トゥ・ミー」。
ピアノの音色とともに儚い歌声が紡がれる、もの哀しいナンバー。
何度も繰り返される「Everything means nothing to me(何もかもが僕には意味のないことさ)」。
なんとか彼を救えなかったのか…。いま聴くと心にズシンと響くナンバーです。
いつ壊れてもおかしくないほど繊細だった、稀代のメロディメイカー、エリオット・スミス。
その生前最後のアルバムも、その繊細な性格をそのまま音符に綴ったかのような、美しくも儚い楽曲集でした。
ありがとう、エリオット・スミス。その魂が安らかでありますように…。